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名前も知らない君へ・・・ (104話)

2009.07.04 Sat

 あれから季早と雅司の関係は徐々に回復していた。

 父が言ったように家から離れて二人で住むというのはただの逃げでしかない。だからこの問題は季早自身が自力で解決していった。それを博夢は黙って見守ってきた。

 「でも、よかったね。」

 「・・・うん。」

 二人で今来たメールをもう一度見る。

 今ではこんなメールが来る程に二人の関係はよくなっている。その事実が自分の事のように嬉しかった。


 「ありがとう。」


 携帯画面を愛おしそうに見つめていると隣から声が聞こえてきた。顔を向けると吸い込まれそうなくらいじっと見つめられ、ドキドキしてしまう。

 「・・・どうした、の?」

 問い掛けると季早は答える事なく顔を近づけてきた。


 「さ・・キト・・・!」


 呆気に取られてどうする事もできない内に鼻先がくっつく程に近づいて止まる。

 その先を予想して咄嗟に目を閉じていた博夢はいつまで経っても何も起こらない事を不思議に思い、そっと目を開ける。


 「・・・!」


 目を開けて視界に入ったのは自分の姿を映した季早の瞳だけで息を呑む。目の前に見える自分の顔は驚いていて、不安げで真っ赤だった。




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名前も知らない君へ・・・ (103話)

2009.07.03 Fri

 「どうしたの!?」

 「いや・・・これ、見て。」

 そう言うと季早は博夢にも見えるよう携帯を持ってくる。何事かと博夢は携帯の画面を食い入るように見つめた。

 「あ・・・」

 つい驚いて声を出してしまう。携帯画面から顔を上へ向けるとまだ驚いた様子の季早と目が合う。

 「ビックリでしょ?」

 「うん。」

 季早の問い掛けに大きく頷くとまた携帯画面に視線を戻す。

 その画面には


 from: 立花雅司


 文面は短く一言、


 『頑張れよ。』


 と書かれていた。




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名前も知らない君へ・・・ (102話)

2009.07.02 Thu

 「この町とも暫くお別れで、僕らの新しい生活が始まるんだね・・・。」

 風に吹かれる髪を掻き分けながら博夢は川へと顔を向ける。つられて季早も川を見る。

 川は散った桜の花びらを乗せて、光をキラキラと反射させていてとても綺麗だった。

 川の様子に心癒され、見つめていると不意に手を何か温かいものが握った。驚いて目をやると博夢の手より一回り大きく、がっしりした季早の手が自分の手を握っている。

 「サキト・・・?」

 「たまにはいいでしょ?」

 困ったように声を掛けると笑顔で答えてくる。驚いて見開いていた目をゆっくり細めて博夢も笑顔を返した。


 「・・・うん。」


 季早の存在を繋がった手から感じ取るように握る手に少し力を入れる。そうすると彼も強く握り返してくれて博夢の顔はますます緩んでいくのだった。



 二人だけの世界に浸っていると突然流れてきた今流行の歌によって現実に引き戻された。季早の方を見るとズボンのポケットを探って何かを取ろうとしている。そして出てきたのは携帯電話だった。

 「メール?」

 「そうみたい。ちょっとごめんね。」

 季早は博夢に断りを入れると空いている方の手で器用にボタンを押して今来たメールを確認していく。

 黙ってその様子を見ていると季早が突然目を見開いた。




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名前も知らない君へ・・・ (101話)

2009.07.01 Wed

 季節は巡り桜が舞う、4月。

 二人の少年があの川原を歩いていた。

 「いよいよ高校生活が始まるね。」

 「うん。ハクは緊張してる?」

 「ちょっとドキドキしてるかも・・・。サキトは?」

 「俺も、緊張してる。」

 季早が苦笑して博夢も苦笑を返す。

 二人は想いが通じ合ったあの日から互いの呼び方をチャットで使っていたペンネーム、『ハク』、『サキト』へと変えた。


 二人だけの特別な呼び方、そして最初に互いを知った時の名前だったから・・・


 さらに変わったのは呼び方だけではない。二人の着ている制服も変わっていた。

 季早は学ランから深緑色のブレザーへ。そして隣を歩く博夢も季早と同じ制服を着ていた。

 二人は住んでいた町から遠く離れた地へ引越し、博夢は新しい家の近くの高校へ編入試験を受けた。

 季早もその高校を受験し見事合格。

 こうして晴れて二人は同じ高校に通うことになったのだった。




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名前も知らない君へ・・・ (100話)

2009.06.30 Tue

 自然と足は後ろへと動く。

 「お前の行動を聞いて失望していた所だったが・・・」

 そこで父は一旦言葉を切る。


 「お前が自分で道を選択したというのなら試させてやってもいいだろう。」


 「え・・・」


 「自分達の力で生きてみろ。だがしかし家を頼る事は許さん。もし出来ない時は私の用意した道を歩んでもらう。」


 言い終わると父は本革使用の椅子をぐるっと回転させ、背を向けてしまう。父の背中は大きな椅子の背でしっかり隠されてしまった。

 博夢は相手に見えてはいないというのに勢いよく頭を下げる。


 「ありがとうございます!」


 床を向いているその顔には安堵の笑みが浮かんでいた。




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